マータの日記

企業内弁理士(バイオ系博士)が日々体験したこと、感じたことをつぶやいてます。

書評1 ゲノム編集の光と闇 (ちくま新書)

青野由利 氏の「ゲノム編集の光と闇 」を読んでみました。

とても面白かったので、ご紹介させて頂きます。

 

1.著者について

 著者は、科学ジャーナリストであり毎日新聞社論説室専門編集委員青野由利 氏(東京大学薬学部卒業)。著書として、本作以外にも、


『遺伝子問題とはなにか~ヒトゲノム計画から人間を問い直す~』、『生命科学の冒険~生殖・クローン・遺伝子・脳』、『3日でわかる遺伝子』


など、多数のサイエンス関連の書籍を執筆されています。本作は、科学ジャーナリストとして、30年近く生命科学をフォローしてきた著者だからこそ書けた作品かと思います。

 

2.作品について

 今話題の『遺伝子編集技術』に関する書籍です。ノーベル賞候補の技術とも言われるクリスパー・キャス9の誕生物語や、その技術的有用性・課題点、そして倫理的問題点について、過去の生命科学の歴史を振り返りながら非常に分かりやすくまとめられています。遺伝子編集という言葉をニュースで初めて聞いたような方から、ある程度研究経験を持った方まで楽しめる内容かと思います。タイトルにあるようにゲノム編集の「光」だけではなく、「闇」の部分である問題点や課題点についてもしっかり書かれています。

 

3. 読んでみた理由

 昨年、中国の研究者がゲノム編集した受精卵から双子の赤ちゃんを誕生させたというニュースが世間を騒がせました。また、近年、アメリカなどではDIYでできる「ゲノム編集キット」が $159で販売されており、一般人でも生物の遺伝子編集を体験することが可能となってきています。

 

http://www.the-odin.com/diy-crispr-kit/

 

https://twitter.com/b8L18UnY7nPd5NC/status/1129880875355688960?s=19

 

 ゲノム編集技術は、人類の未来を大きく変える可能性を秘めており、今後益々目が離せない分野であります。研究者、また弁理士として現在の状況を把握しておきたいと思い、読んでみました。

 

4. 読んでみた感想

 本書は、ゲノム編集という最先端の技術を紹介するだけでなく、「そもそも人工的に遺伝子を組み替えるとはどういうことか」について、その技術の発展の過程や倫理的問題について分かりやすくまとめられています。本書を一冊読めば、この分野の現在の状況を把握するのにとても役立つと思います。その中で、私としては、どちらかというとゲノム編集の技術的課題点や倫理的問題点に興味がわきました。
 

 技術的課題については、狙った遺伝子とは別の遺伝子を編集してしまう「オフターゲット効果」と、一部の細胞のみを編集してしまう「モザイク」などについて書かれていました。ある研究者が、ヒト受精卵に対するゲノム編集を試験管内で実施したところ、こういった「オフターゲット効果」「モザイク」などが発生し、起きては困ることのオンパレードだったという話が印象に残りました。このように、ゲノム編集技術は、医療に応用するには、まだまだ改良が必要な技術であることを認識することができました。倫理的問題点に関しては、何億年もかけて進化させてきた「人類の遺産」ともいえるヒトゲノムをこんなに簡単に改変していいのか?という点や優生学に繋がるという点などに共感を覚えました。
 

 また、本書の第6章では、ゲノム編集技術を用いて「古代人や絶滅動物の再生は可能か」という点についても書かれていて、ここは非常にロマンのあふれる内容で個人的にはとても好きでした。

 

5. まとめ

 本書は、最近のゲノム編集にまつわる状況をコンパクトかつ丁寧にまとめられており、この分野に興味がある人にとっては非常におすすめです。また、遺伝子編集の倫理的な問題について考えるいい機会になると思います。是非読んで頂きたいと思います。